ドラゴンライダー・ロカ  [1]

先日、マーズの桝田さんから、執筆中の「ハルカ(仮)」の裏話をきいて、いろいろと思うこと
がありました。
で、先日、ごそごそとむかし書いたものを発掘していて見つけたのが、これ。


これは、小説でもプロットでもありません。絵でいうところのラフスケッチのようなもの。
とある企画の冒頭部分を自分のイメージを確かめる意味もこめてざざっと定着してみたものです。
結局、これは窪岡さん以外には誰にも見せてないんじゃないかなぁ……。


とりあえずファーストシーンの定着ですが、他にいくつか試しで書いたシーンもあります。
そのうち、なにかの形でまとめようと思ったりして……。


ドラゴンライダー・ロカ  [シーン0]】


 村の境界の一番はずれ、雑木林のはじまる辺りにポツンと建つ小さな一軒家。
 ひとりの少女が水くみをしている。はつらつとした明るい少女。意志の強そうな輝
く瞳。
 少女、ふと空を見あげる。
 ぬけるような蒼い空。
と、少女の瞳が見開かれる。驚く少女。次の瞬間、はじけるような喜びの表情とと
もに、彼女は駆けだす。
 空の上、小さな影が飛んで行く。少女はそれを見あげながら駆けてゆく。
 影は、竜に乗った人間であった。
 少女は、何度か転びそうになりながらも、空を見あげ、手を振りながら畑の中のあ
ぜ道を駆ける。駆ける。
「お〜い! お〜い!」
 少女は、大きな声で呼びかけるが、竜に乗った人は気づいてくれない。竜は、広が
るブドウ畑の向こうに小さく見える村の集落へと、ゆっくりと飛んでいく。
 少女、小川を飛びこえ、林を抜け、人の家の庭を駆け抜けてその竜をおう。
 やがて、村の集落へと着く少女。何事かとおどろく村人らをてんてこまいさせなが
ら、少女は、中央広場へと駆けていく。
 中央広場には、大きな神殿がある。その高い塔のちょっと上ぐらいの高度で、竜は
村の上を飛んでゆく。
「お願い、待って!」
 少女、神殿に駆け込む。息を切らせながらも懸命に階段を上る。高い塔の天辺へと
駆け登る少女。
 一番てっぺんの小さな鐘楼のドアを開け放つ少女。いきなり、視界が360度のパ
ノラマで広がる。村が、畑が、少女が駆け抜けた世界すべてが眼下に広がる。
 そして、すぐ頭上を竜が飛んで行こうとしていた。
「なんて……、きれいなの……」
 その優雅な姿に、はずませていた息も一瞬止るほど感激し、思わず見とれてしまう
少女。
 だが、通り過ぎようとする竜に我に返ってあわてる。
「待って! ねえ、待ってちょうだい!!」
 大声をあげるも、竜は飛んで行ってしまいそうになる。
 竜の影が、小さくなってゆくのを見つめる少女。意を決して鐘楼にかかっている鐘
にとびつく。
 大きな鐘を一所懸命に動かそうとする少女。早くしないと、竜が行ってしまう。あ
せる、あせる。
 ついに鐘は鳴り始める。村中に響き渡る鐘の音。
 竜にまたがっていた少年、急に鳴りだした鐘の音に気づいて下を見る。
 小さな村の鐘楼の上に、こちらに向かって手をふっている少女がいた。なんだか必
死の様子だ。
 少年は、竜をうながす。ゆっくりと旋回する竜。
 塔がぐるりと回りながら近づいてくる。少女、竜が戻ってくると分かってとても喜
んでいるようだ。なにか、叫んでいるが、鐘の音はまだ続いていて聞こえない。
 竜、鐘楼にかなり近づく。
「お〜い、君! ぼくたちを呼んだ? お〜いったら!」
 鐘の音の余韻で、まだ双方の声は聞こえない。
 塔すれすれに飛ぶ竜。少女、笑みを満面に浮かべ、いきなりジャンプして竜の背中
へ。
「うわぁ!?」
 驚きつつ、少年、少女を抱きとめる。
 竜、バランスを崩して降下してゆく。
「うわあ〜!!」
 民家の屋根すれすれをかすめ、なんとか着地(というかおだやかな墜落)をする。
「イテテテ……。まいったなぁ……」
 少年、少女を守っているが、その分お尻をイヤというほどぶつけたようであった。
「君、なんて無茶なことするんだ。いったい……」
 少女、顔を上げる。
 バラ色の頬、キラキラとひかる明るい小麦色の瞳に、少年、ちょっと口ごもってし
まう。
 少女、そんな少年を気にする風もなく、いきなりその首に抱きつく。
「わぁッ!?」
「待ってたの、あたし!」
「へ?」
ドラゴンライダー! ドラゴンライダーさまなんでしょ!? やっと来てくれたのね。
うれしい!」
「えっとぉ……?」
「わたし、ヒカリ! ドラゴンライダーさまのお名前は?」
「あ、いや、ドラゴンライダーというか、そのぼくは……、ロカだけど、その……」
「ロカさま!」
「あ、うん。それで、君、あの、ヒカリ……さん。どうして君は?」
「さあ、行きましょう! ドラゴンライダー・ロカさま!」
 ヒカリ、さっさと立ち上がって少年を見つめている。
 ロカ、なんだかよくわからないまま、少女のペースに巻き込まれ困惑。
「行くって? その、どこへ……?」
「あら、決まってるじゃない」
 クスリと笑う少女。
「冒険の旅よ!」